心筋梗塞見落とし 医療過誤事件の解決


 この事件の経過は以下のとおりです。
医療過誤事件のイメージ 潮来市に住み,会社経営をしていた糖尿病既往のある50歳の男性が,1999年4月に自宅で就寝後,夜中に喉や肩,背中に激しい痛みが出たため,救急車を呼び,鹿嶋市の病院に搬送されて当直医の診察を受けました。しかし同医師は専門が整形外科であったこともあり,胸痛という心筋梗塞の典型症例ではなかったことから,同病を疑うことなく心筋梗塞の診断には欠かせない心電図検査は行わず,上気道炎(風邪)と誤診し,消炎鎮痛剤や消炎酵素剤を処方しただけで,本来絶対安静が求められるにもかかわらず,男性を帰宅させてしまいました。男性は痛みに耐えながら帰宅し,床に就きましたが,午前4時ころ再度激しい痛みに襲われ,妻が運転する自動車で再度病院に向かいました。しかしその途中で男性は意識がなくなり,途中から救急車で病院に搬送されましたが,救急車内で呼吸停止の状態になり,病院に到着後間もなく死亡してしまいました。
 その後当事務所に遺族が相談に訪れ,同年11月に病院に残されたカルテ等を入手すべく,裁判所に証拠保全申立の手続きを行い,その後病院側と交渉を持ちましたが解決に至らず,2002年4月に水戸地方裁判所に提訴となりました。
 訴訟手続きの中で,遺族や当直医などの各尋問が行われました。当直医は,心筋梗塞を誤診したことを認め,遺族に謝罪する潔い証言をしましたが,病院側は賠償責任を争い和解を拒否し,2005年10月に鑑定を求めてきました。裁判所はやむなく鑑定人に鑑定を依頼し,専門の医師から鑑定書が出されました。そして鑑定書においても病院の責任が明らかだと断罪されました。
 その結果病院側もやっと争いを諦め,2006年9月1日和解に応じ,総額1億円を賠償し,遺族らに謝罪するということで事件が決着しました。事件発生から7年が経過し,訴訟機関は約4年半という長期に及びました。
 この事案は,男性が死亡後解剖がなされていなかったことから,死亡原因や病名等の確定が困難であったため,立証に難しさがありましたが,最終的には全面的に遺族側の主張が認められる完全勝利となった貴重な事件です。
 来医療過誤訴訟での勝訴は困難な実情がありましたが,最近の最高裁判例は,医療側に厳しい見方をしており,医療事故がやまない実情や世論の動向等を意識しながら,中立公平で妥当な判決が目立つようになってきました。
 また医療側のなかにも,良心的な医師や関係者も多く,医療事故の発生防止や対策に向けて医療機関の内部で努力をしている方もおられます。
 医療訴訟が困難なものであることは変わりませんが,私たちはこれらの医療従事者の方達とも連携し協力しながら,医療被害を受けてお悩みの方の力になり,誰もが安心して医療提供を受けることのできる社会を作り上げたいと考えております。

(弁護士 佐藤大志)


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